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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)151号 判決 1976年8月06日

抗告人(原審相手方) 甲野太郎

右代理人弁護士 米田軍平

相手方(原審申立人) 甲野花子

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨と理由は、別紙記載のとおりである。

よって審按するに、一、先ず抗告人と相手方が昭和四三年五月二五日に婚姻し、同四四年二月九日長男一郎が、同四七年八月三日二男二郎がそれぞれ出生したことは宇都宮家庭裁判所昭和五〇年(家イ)第八二号調停事件記録(以下調停記録という)中の筆頭者抗告人甲野太郎の戸籍謄本によってこれを認めることができる。

二、そして≪証拠省略≫によると、抗告人は、昭和五〇年一月に、それまで抗告人、相手方、長男一郎および二男二郎の四人で同居生活していた相手方肩書住所(これは抗告人勤務会社の社宅である)に相手方と二男二郎を残し、長男一郎を連れて抗告人肩書住所(これは抗告人の両親の住む実家である)に去り、以後、相手方の意思に反して別居を続けていることが認められる。

三、別居の直接原因については、≪証拠省略≫によると、相手方は「昭和五〇年一月三〇日抗告人が足でやかんのふたをするので口論となり『家へ帰んな』と言ったら、抗告人が出て行ってしまった」と言い、抗告人は「ささいなことから口論になり、相手方が『金さえあれば亭主は要らない』と言ったので、出て来てしまった」と言っていることが認められる。

四、しかし抗告人が別居するに至った事情は根が深く、抗告人は、相手方に対し、次のような不満を抱いていて、相手方を嫌悪し、婚姻生活を続けていくことは我慢ができない心理状態に立ち至っていることが≪証拠省略≫によって認められる。

1、抗告人が相手方と同居していた期間一再ならず相手方の性格的欠陥を直すよう仕向けたが直らない。

2、相手方は話合いをしても聞き入れないため生活が成り立たない。

3、相手方は水使いが異常(水道の水を毎月三、〇〇〇円以上使う、一日平均五時間洗濯している、風呂に入ると湯を三六杯汲み出す、そのくせ茶碗などは何日も洗わない)である。

4、相手方は掃除をしない。

5、子供が幼稚園に持って行く弁当を握り飯で済ませる。

6、料理は月三回位しか作らない(全部市販のものだけ)。

7、性格が合わない。

五、しかしながら≪証拠省略≫によると、次のような事実が認められる。

1、相手方は、長男一郎が病気勝で病院に通い、二男が幼少であったため、家事のやり方が抗告人の気に入るようにできなかったし、また性分で、洗濯などの水仕事や家事に人より時間がかかったが、このようなことを反省し、自分の欠点を直して結婚生活を続けて行きたいと願っていること。

2、相手方には、潔癖過度や細菌恐怖などは認められない(ただ仕事がていねいな上手順が悪いのである)こと。

3、相手方は自己中心的な考えが強い上自説に固執する傾向があり、過去のことや些細なことにこだわり妥協しない欠点があるが、相手方から抗告人を見たときには抗告人は家庭経済をかえりみず、月に一斗も飲酒し、自家用車の助手席に自分を乗せてくれず、七年間貯金通帳を見せたことがなく、実母と仲が良すぎるなどの不満を持っており必ずしも相手方一方にのみ原因があるわけではないこと。

4、抗告人は必要以上に世間体を気にし、神経質であり、自分の考えに固執する傾向があり、現在は相手方の短所だけが目につき、相手方の日頃の言動は性格から来ている故に改善は不可能であると断定してしまっているだけであること。

六、以上を総合すると、まだ抗告人と相手方との間の婚姻関係(家族的共同生活関係)の維持が全く不可能な段階に立ち至っていると言うことはできない。

七、ところで≪証拠省略≫によると、相手方は、二男二郎がまだ幼くてこれに手がかかるため稼働できず、収入がないことが認められ、≪証拠省略≫によると、抗告人は○○○○○工業株式会社に勤め原審判書理由欄記載のとおりの収入を得ていることが認められるから、抗告人は、前記別居が解消するか、婚姻が解消しない限り、未成熟の二郎の養育費をふくむ婚姻費用を負担しなければならず、その具体的分担額については、原審判書理由欄挙示の資料によれば、抗告人は原審判認定のとおりの金額を負担すべき義務があるということができる(原審判書六枚目表一行目に「Ⅱ」とあるのは「Ⅰ」の、同七枚目裏一行目に「昭和四八年八月分」とあるのは「昭和五〇年八月分」の誤記と認めこれを右のとおり訂正する)。

八、結局原審判は相当であると認められ、本件抗告は理由がないから家事審判法七条、非訟事件手続法二五条民事訴訟法四一四条、三八四条一項に則りこれを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡松行雄 裁判官 唐松寛 木村輝武)

<以下省略>

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